疲労感・だるさが抜けない、取れない病気
疲労感・だるさ・倦怠感について

「なんとなく体が重だるい」「すぐに疲れを感じる」といった不調は、多くの方が日々の生活の中で経験されるものです。こうした疲れやすさや体のだるさは、単なる疲労の蓄積だけでなく、生活リズムの乱れや精神的ストレス、睡眠の質の低下、さらには体内で進行している疾患など、さまざまな原因が影響して起こることがあります。このような体調の変化は、心身のバランスが崩れているサインである可能性もあり、そのままにしておくと慢性的な症状に移行したり、普段の生活に支障を及ぼすことがあります。また、「疲労感」「だるさ」「倦怠感」は、似ているようで少しずつ意味合いが異なります。疲労感とは、運動や作業などのあとに感じる身体的・精神的な疲れであり、多くの場合は休養によって回復します。
だるさは、「体が重い」「力が入らない」といった感覚を表す、日常的であいまいな表現です。人によって感じ方に差があり、医学的な定義は明確ではありません。倦怠感は、医学的にも使われる専門用語で、「休息をしても疲れがずっと取れない」といった状態が続くことを指し、背景に内科的な疾患(例:貧血、甲状腺機能低下症、うつ病など)が隠れている場合もあります。このような状態が何日も続く場合や、日常生活に影響が出るようであれば、単なる疲れと考えず、早めに医療機関で相談されることが重要です。
体のだるさ・倦怠感につながる疾患以外の主な原因
過労や身体の使いすぎによる疲れ
毎日の仕事や家事、育児といった身体を使う活動によって、私たちの体には徐々に疲れが蓄積していきます。通常であれば、適度に休息をとったり、しっかりと睡眠を確保したりすることで体力は回復し、健康な状態を維持できます。しかし、十分な休息をとらないまま体を動かし続けていると、疲れが慢性的に残るようになり、いわゆる「慢性疲労」の状態に陥ることがあります。このような疲労が続くと、体のだるさだけでなく、眠りが浅くなる、食欲が低下する、集中できなくなるといった複数の症状が現れやすくなります。こうした症状は、全身の倦怠感や長引く疲労感の原因となることがあります。また、睡眠や食事のタイミングが不規則な生活を続けていると、体調を崩しやすくなることがあります。特に昼夜のリズムが逆転したような生活習慣が続くと、脳の疲れがたまりやすくなり、自律神経の働きが乱れる可能性があるため注意が必要です。
心のストレスや緊張
仕事に伴う緊張感や人間関係での悩み、引っ越しや勤務先の変更など、日常生活の変化は心に大きな負担をかけることがあり、それがストレスとなって現れます。このような心理的なストレスによって自律神経の働きが乱れ、結果として体のだるさや疲れやすさなど、さまざまな体調不良を引き起こすことがあります。こうした場合には、ストレスの原因となっている出来事や状況が改善されることで、心身の不調も徐々に落ち着いていくことが期待されます。しかし、ストレスを解消せずに長い間抱え続けていると、心の不調が悪化し、やがてうつ病などの精神疾患を引き起こす可能性もあるため、早めに気づいて適切に対処することが重要です。
栄養バランスの偏り
人の体は、毎日の食事から必要な栄養を取り入れることで、エネルギーや体の機能を維持しています。ところが、エネルギー源となる栄養素が不足している状態が続くと、体を動かすための力が十分に得られず、軽い作業や日常の動きでも疲労を感じやすくなったり、全身にだるさを覚えたりすることがあります。
鉄分不足
私たちの体内では、血液中の鉄分が酸素と結合し、その酸素を全身の細胞へ運ぶ役割を担っています。ところが、鉄分が不足すると、ヘモグロビンが低下し酸素を全身に十分運搬できなくなり、結果として鉄欠乏性貧血を引き起こす原因になります。このような状態になると、体全体に疲れやすさや脱力感が現れるほか、食欲が落ちるなどのさまざまな症状を伴うことがあります。とくに女性は、月経によって定期的に鉄分を失うため、男性に比べて鉄分不足や貧血を起こしやすい傾向があります。そのため、女性の中には、慢性的なだるさや疲労感を感じやすい方も少なくありません。
ビタミン不足
ビタミンB群は、たんぱく質・脂質・糖質といった三大栄養素を体内でエネルギーへと変換する際に不可欠な栄養素です。特にビタミンB1、B2、B6は、エネルギー代謝を円滑に行ううえで重要であり、神経や筋肉の働きをサポートする役割も担っています。そのため、これらのビタミンは疲労の回復とも深く関わっています。ビタミンB群が不足すると、体内でのエネルギー産生が滞りやすくなり、筋肉の機能がうまく働かなくなることがあります。その結果として、ちょっとした動作でも疲れを感じやすくなったり、慢性的なだるさが現れたりすることがあります。
たんぱく質不足
たんぱく質は、筋肉や骨、血液など、体を構成するさまざまな組織をつくるために欠かせない栄養素です。このため、たんぱく質の摂取量が不足すると、筋肉の量が減少しやすくなり、それに伴って筋力も低下する可能性があります。また、血液中の主要なたんぱく質であるアルブミンなども体内のたんぱく質から作られているため、長期的なたんぱく質不足によって、低アルブミン血症になり、むくみが出現します。
糖質不足
糖質が不足すると、体内のエネルギーが足りなくなり、疲労感やだるさを感じやすくなることがあります。糖質(炭水化物)は、消化・吸収されることでグルコース(ブドウ糖)に変わり、全身の細胞が活動するためのエネルギー源として使われます。特に脳や神経、筋肉はグルコースを主な燃料としており、日常的な思考や身体の動きのために常にエネルギーを必要としています。そのため、食事からの糖質摂取が不足すると、エネルギー供給が追いつかなくなり、体が重くだるく感じたり、ちょっとした動作でも疲れやすくなったりすることがあります。また、集中力が低下する、イライラしやすくなるといった症状が出る場合もあります。極端な糖質制限を行っている場合や、食事量が減っているときには、こうした不調が現れやすくなるため、適度な糖質の摂取が重要です。
睡眠の質や量の低下
睡眠は、体と脳を休ませ、心身の機能を整えるために必要不可欠な生理的プロセスです。私たちが一晩でも十分な睡眠時間を確保できない場合、翌日には強い眠気に加え、体が重く感じたり、集中しづらくなったり、疲労感が残ったりすることがあります。こうした状態が続くと、慢性的に疲れが取れにくくなり、仕事や家事など日常生活に影響を及ぼす可能性もあります。また、睡眠の「時間」が足りないだけでなく、夜中に何度も目が覚めるなど「質」が悪い場合にも、同様にだるさや疲れやすさが引き起こされることがあります。そのため、健康を維持し心身を良好な状態に保つためには、時間と質の両面から、十分で質の高い睡眠を確保することが重要です。
運動不足
日常的に体を動かす機会が少ないと、筋力が低下し、全身の代謝機能が低下しやすくなります。水分や血液の流れも滞りやすくなります。その結果として、筋肉に疲労に関連する物質が蓄積しやすくなり、体が重く感じられたり、少しの活動でも疲れを感じやすくなったりすることがあります。さらに、運動不足によって身体を動かす習慣が減ると、気分転換やストレス解消の機会も少なくなり、自律神経の乱れや心の疲れ(精神的な倦怠感、集中力の低下など)が生じる原因にもなり得ます。このように、運動不足は肉体的な疲労だけでなく、神経系や精神面にも悪影響を及ぼす可能性があるため、適度な運動習慣を保つことが健康維持のうえで重要です。
女性ホルモンのバランスの乱れ
女性の場合、ホルモンバランスの変動によって、月経の前後に体のだるさを感じやすくなることがあります。くに月経前は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の分泌が急激に変化するため、心身にさまざまな不調があらわれやすくなります。月経前の不調は「PMS(月経前症候群)」と呼ばれ、主な症状には、体の重だるさ、疲労感、むくみ、乳房の張り、気分の落ち込み、イライラなどが含まれます。これらの症状は、月経の1週間ほど前から起こることが多く、日常生活や仕事に影響を及ぼすこともあります。このように、女性が感じるだるさや倦怠感には、疾患ではなく生理的なホルモン変化が背景にある場合も少なくありません。症状がつらいときには、食事・睡眠・運動といった生活習慣の見直しに取り組むとともに、必要に応じて婦人科を受診することも重要です。
体のだるさ・倦怠感につながる疾患
風邪
風邪やインフルエンザの初期には、咳や鼻水、発熱といった典型的な症状に加えて、全身のだるさや疲れを強く感じることがあります。これは、体内に侵入したウイルスに対して免疫システムが反応し、炎症を引き起こす物質(サイトカインなど)が放出されることで、倦怠感や疲労感といった全身症状が現れやすくなるためと考えられています。
心不全
心不全とは、心臓の機能が低下し、全身に必要な量の血液を十分に送り出せなくなっている状態を指します。心臓は血液を循環させるポンプのような役割を担っていますが、その働きが弱まると、血液が全身へ行き渡りにくくなります。特に重力の影響を受けやすい下肢(足)では血液がうっ滞しやすくなるため、むくみが出やすくなります。また、血液循環が不十分になることで筋肉や臓器に酸素や栄養が十分に届けられなくなり、わずかな動きでもすぐに疲れを感じたり、全身のだるさが続いたりすることがあります。このような症状は、血流不足による組織の代謝機能低下が関係していると考えられています。
低血圧症
低血圧症とは、血圧が慢性的に低い状態が続き、体に必要な血液が十分に循環しづらくなる状態を指します。まったく症状がない場合も少なくはありませんが、臓器の血流低下から、体がだるく感じられたり、悪心、ふらつき、立ちくらみ、めまいといった症状がみられることがあります。これらの不調は、血圧の低下によって全身、とくに脳への酸素や栄養の供給が不足することが原因と考えられています。つまり、血圧低値よりも血圧低下に伴っておこる症状が問題になります。朝の起床時や長時間立ち続けた後など、急な姿勢の変化が引き金となって症状が強く出やすい点も特徴です。こうした状態が続くと、学校や仕事、家事など日常生活に支障をきたすこともあるため、注意が必要です。
貧血
貧血とは、血液中のヘモグロビンの量が減少し、体の隅々まで十分な酸素を運ぶことが難しくなっている状態を指します。ヘモグロビンは赤血球に含まれ、肺で取り込んだ酸素を全身に届ける役割を担っています。そのため、ヘモグロビンが不足すると、各臓器や組織への酸素供給が不十分となり、全身のだるさ、疲れやすさ、立ちくらみ、息切れなどの症状が出現しやすくなります。貧血の原因は一つではなく、年齢や性別、ライフスタイルによって異なるケースが多く見られます。たとえば、女性では月経による出血が主な原因となることが多く、特に経血量が多い(過多月経)場合や血の塊がみられる場合は注意が必要です。また、30代~40代の比較的若い年代では、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などによる慢性的な消化管からの出血が貧血の背景に隠れていることもあります。胃潰瘍では食後の胃の痛みや胃もたれ、吐き気が現れやすく、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みを感じることが特徴的です。さらに高齢の方の場合、血液の疾患(骨髄異形成症候群など)や消化器系の悪性腫瘍が貧血の原因となっていることもあります。ふらつきやめまい、顔色(血色)が悪いといった兆候がみられる場合には、できるだけ早く医療機関を受診することが勧められます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に繰り返し呼吸が止まることにより、体がしっかりと休息できなくなり、日中の強い眠気やだるさ、慢性的な疲労感の原因となる疾患です。ここでいう「無呼吸」とは、10秒以上呼吸が停止した状態を指します。これが1時間あたり5回以上、または一晩(7時間程度)の睡眠中に30回以上生じる場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。この疾患は、睡眠中に無意識のうちに起こるため、自分では気づきにくく、放置されやすい傾向があります。そのため、日本国内には自覚のないまま過ごしている潜在患者が約300万人いると推定されており、「21世紀の国民病」とも呼ばれています。睡眠時無呼吸症候群は、継続的な陽圧呼吸(CPAP)療法やマウスピース治療などにより、症状の改善が期待できる疾患です。しかし、適切な治療を受けずにいると、睡眠中の酸素不足が慢性化し、高血圧、心不全、脳卒中、心筋梗塞といった重大な循環器疾患を引き起こすリスクが高まることがわかっています。日中の眠気が強く続いたり、起床時の頭の重さや倦怠感を感じる方は、睡眠の質に問題がある可能性があるため、早めに専門医への相談を検討することが重要です。
糖尿病
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態が続き、全身にさまざまな障害を引き起こす疾患です。血糖値のコントロールがうまくできない状態が続くと、免疫力が低下したり、代謝バランスが崩れたりすることで、感染症やその他の合併症を発症しやすくなると考えられています。うした高血糖の状態では、体の疲れが取れにくくなったり、慢性的な倦怠感を感じたりすることがあります。特に初期の糖尿病では目立った症状がないことも多いものの、気づかないうちに集中力の低下や意欲の減退といった体調の変化が現れる場合があるため、注意が必要です。もし健康診断などで血糖値の上昇やHbA1cの値が高いと指摘された場合には、そのままにせず、医療機関での再検査や必要に応じた治療を早めに開始することが重要です。
急性肝炎
急性肝炎とは、肝臓に急激な炎症が生じることで、体全体に強い疲労感や倦怠感などの不調をもたらす疾患です。この疾患の原因には、過度の飲酒や特定の薬剤の影響が挙げられることもありますが、最も一般的なのはウイルス感染による肝炎です。原因となる肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型の5種類が知られており、それぞれに異なる感染経路(経口・血液など)や症状の進行パターンがあります。これらのウイルスに感染した場合、数週間から長ければ半年程度の潜伏期間を経て、症状が出現します。初期症状としては、発熱、強いだるさ、筋肉痛など、風邪に似た体調不良がみられます。進行すると、尿の色が濃くなったり、吐き気や嘔吐、全身の著しい倦怠感があらわれることがあります。さらに、多くの方に共通して見られるのが「黄疸(おうだん)」です。これは、皮膚や目の白い部分(強膜)が黄色くなる現象であり、肝機能の低下を示す重要なサインのひとつとされています。
自律神経失調症
自律神経失調症とは、心身に長期間ストレスがかかることで、自律神経の働きが乱れ、体にさまざまな不調が生じる状態のことをいいます。律神経は、呼吸、心拍、消化、体温など、私たちが意識せずに行っている生命活動を調整する重要な役割を持っています。この神経のバランスが崩れると、体のだるさや慢性的な疲労感、めまい、眠りにくさ(不眠)などの症状が出ることがあります。また、ストレスが関係する疾患にはほかにも、過敏性腸症候群、過換気症候群、メニエール病などがあり、これらの疾患でもだるさが続く、疲れが取れにくいといった状態がみられることがあります。こうした症状が改善しないまま続く場合には、疾患の背景を正しく評価したうえで、状態に合った治療を受けることが重要です。そのためにも、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
慢性疲労症候群
慢性疲労症候群とは、強い疲労感が6か月以上にわたって続き、日常生活に支障をきたすような状態が続く疾患です。この疾患では、目立った身体的異常が検査などで確認されないにもかかわらず、原因不明の強い倦怠感が突然現れることがあります。また、発症のきっかけとしては、精神的・身体的なストレスやウイルス感染などが関係していると考えられています。主な症状には、著しい疲労感に加えて、力が入らない感覚(脱力感)、微熱、集中力や記憶力の低下、頭痛、眠りの質の低下(熟眠感の欠如)、気分の落ち込み、筋肉痛や関節痛、腹痛など、心身にわたる多彩な不調がみられます。これらの症状は、単に働きすぎや睡眠不足による「過労」とは異なり、休息をとっても改善しにくいのが特徴です。そのため、慢性疲労症候群が疑われる場合は、他の疾患との鑑別を含めた医学的な評価が必要であり、症状に応じた多角的な治療やサポートが求められます。
甲状腺機能異常
甲状腺機能障害とは、甲状腺ホルモンの分泌量に異常が起こることで、体全体の代謝に影響を及ぼす疾患です。この疾患は、特に女性に多く見られる傾向があり、年齢を問わず注意が必要です。甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる場合を「甲状腺機能亢進症」と呼びます。この状態では、ホルモンが過剰に分泌されることで新陳代謝が著しく高まり、急激な体重減少、発汗の増加、心拍数の上昇(動悸)、手のふるえ、そして強い疲れやすさや体のだるさなどが症状として現れます。反対に、甲状腺ホルモンが不足する状態は「甲状腺機能低下症」と呼ばれ、この場合には代謝が低下することにより、皮膚の乾燥、体重の増加、便秘、むくみ、意欲の低下、強い倦怠感などが見られるようになります。これらの症状は、更年期障害やストレスによる体調不良と似ているため、本人も周囲も気づきにくいことがありますが、血液検査で甲状腺ホルモンやTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値を確認することで診断が可能です。症状が続く場合や気になる体調の変化がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
副腎機能不全
副腎機能不全とは、副腎の機能が低下し、必要なホルモンが十分に分泌されなくなる疾患です。この疾患は、副腎に生じた腫瘍や慢性的な炎症、結核感染、あるいは自己免疫反応によって副腎組織が障害されることなどが原因になることがあります。副腎は、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌器官で、コルチゾール、アルドステロン、アンドロゲンなどを分泌する働きがあります。なかでも、ストレスへの対処や血糖・血圧の維持に関与するコルチゾールが不足すると、低血糖、低血圧、慢性的な疲労感や体のだるさ、体重減少、食欲不振といった症状が現れることがあります。副腎機能不全は、初期には非特異的で気づきにくい症状が多いです。原因として「アジソン病」として知られる原発性副腎皮質機能低下症が隠れている可能性があります。また、感染などを契機にコルチゾールの十分な供給ができなくなる「副腎クリーゼ(急性副腎不全)」起こる可能性があります。そのため、だるさが長く続く、体調に波があるなどの異変を感じた場合には、早めに医療機関を受診し、ホルモンの異常がないか検査を受けることが重要です。
うつ病
うつ病とは、心身にかかる過度なストレスなどがきっかけとなり、脳の働きに不調が生じてあらわれると考えられている精神的な疾患です。この疾患の発症には明確な単一の原因はなく、心理的な負担、身体的な疲労、生活環境の変化、遺伝的な体質など、複数の要素が関わっていると考えられています。うつ病になると、気分の落ち込みが長期間続くほか、興味や関心、やる気が著しく低下することがあります。さらに、わずかなことで疲れを感じたり、体のだるさが抜けなかったり、眠れない、食欲が出ないといった身体の症状がともなうことも珍しくありません。このような心と体の症状によって、日常生活に支障が出て、これまで通りの生活が困難になることもあります。うつ病は、「気合いで乗り越えられるもの」ではなく、医師の診断と適切な治療、そして周囲の理解と支援によって回復が望める疾患です。そのため、気分の落ち込みや疲労感が長引くようであれば、無理をせず早めに精神科や心療内科を受診することが重要です。
体のだるさ・倦怠感が続く場合に行う検査
血液検査
体のだるさや疲労感が長引く場合、その原因を調べる一つの手段として血液検査が活用されます。具体的には、貧血の可能性を確認するために赤血球の数やヘモグロビンの濃度を調べるほか、肝臓や腎臓の機能を評価するための肝機能・腎機能検査、糖尿病の有無をみる血糖値やHbA1cの測定、さらにホルモンバランスを把握するために甲状腺ホルモン(TSHやFT4など)の値を測定します。あわせて、神経や筋肉の働き、体内の水分バランスを維持するために重要なナトリウム、カリウム、カルシウムといった電解質の濃度もチェックし、全体的な体調を総合的に評価していきます。
心電図
心電図検査とは、心臓が収縮と拡張を繰り返す際に生じる微弱な電気活動を皮膚表面で捉え、波形として記録することで、心臓の状態を調べる検査です。検査時には、手首や足首にクリップ状の電極を、胸部には吸盤のような電極を貼り付け、ベッドに仰向けで安静にしていただいた状態で測定を行います。検査自体は数分で終了し、痛みや身体への負担はほとんどありません。この検査によって、不整脈や心筋虚血(心筋への血流不足)といった心疾患の有無を確認することができます。そのため、だるさや疲れやすさが続く場合に、心臓の機能に問題がないかを調べる手段として活用されます。とくに、動悸や息切れ、胸の圧迫感などをともなうケースでは、心臓が関係している可能性があるため、心電図検査を行うことが重要です。
睡眠時無呼吸症候群の検査
睡眠時無呼吸症候群の検査とは、睡眠中の呼吸状態を把握し、呼吸が止まる「無呼吸」や浅くなる「低呼吸」の有無を確認するための検査です。検査には、ご自宅で使用できる携帯型の検査機器(簡易型ポリグラフ)を用いることが一般的で、多くの方はこの簡易検査から始めます。就寝中に自然な状態で検査が行えるため、身体的・時間的な負担が少ないことが特長です。検査時には、指先に装着するセンサーで血中の酸素濃度を測定し、鼻の下には呼吸の流れを検出するチューブ(経鼻カニュラ)を取り付けて、いびきや呼吸停止の回数、呼吸のパターンなどを記録します。この検査はご自宅で実施可能なため、通院による時間的制約や生活への影響を抑えながら進めることができます。検査の結果、睡眠時無呼吸症候群と診断された場合は、就寝中に気道を確保するための「CPAP(シーパップ)療法(持続陽圧呼吸療法)」や、体重管理・禁煙などの生活習慣改善を組み合わせて治療を行います。
だるさ・疲れやすさを軽減するセルフケアの方法
質のよい睡眠をしっかり確保する
慢性的な疲れや体のだるさを軽減するためには、良質な睡眠をしっかり確保することが重要です。しっかりと休養をとることで、心身の回復が促され、疲労感の軽減が期待できます。睡眠の質を向上させるためには、就寝と起床の時間を毎日できるだけ一定に保つよう意識することが基本です。特に朝の時間帯には、太陽光を浴びることで体内時計が整いやすくなり、夜になると自然に眠気が訪れやすくなります。また、早めに寝る習慣を意識するとともに、睡眠環境を見直すことも有効です。たとえば、寝室の室温や湿度を適切に整え、静かで落ち着いた空間を保つことで、より深く眠れるようになります。さらに、就寝前に38~40度程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かることで副交感神経が優位になり、入眠をスムーズにする効果が期待されます。
栄養バランスの良い食事をとる
毎日の3食を通して、栄養のバランスが整った食事を継続的にとることは、身体の疲労回復を促すうえで欠かせません。なかでも、朝食と昼食ではしっかりとエネルギーと栄養素を補給し、夕食は胃腸に負担がかからないよう、やや軽めのメニューにするのが望ましいとされています。ご飯やパンなどの炭水化物(糖質)は、私たちが活動するための主要なエネルギー源です。しかし、この糖質を効率よくエネルギーに変換するためには、ビタミンB1などの栄養素が補助的に必要です。たとえば、豚肉や納豆、玄米などに多く含まれるビタミンB1を一緒に摂取すると、糖質の代謝が円滑に行われ、エネルギー効率が高まり、疲れにくい体の維持に役立ちます。一方で、糖質ばかりを多く摂取しても、補酵素となるビタミンやミネラルが不足していれば、体内でうまく代謝されず、かえって疲れを感じやすくなることがあります。このことは、糖質だけでなく、たんぱく質、脂質、その他のビタミンやミネラルなど、すべての栄養素に共通して言えることです。そのため、特定の食品に偏った食事を続けると、栄養素の働きが十分に発揮されず、体調を崩したり疲れやすくなったりするリスクが高まります。1日を通してさまざまな食材を組み合わせ、栄養バランスに配慮した食生活を心がけることが、日常的な疲労を軽減し、健康を保つためには非常に重要です。
自分に合ったストレス対処法を見つける
ストレスを感じたときに、自分に合った対処法を身につけておくことは、心と体の健康を維持するうえで重要です。適切にストレスを解消できれば、情緒が安定しやすくなり、自律神経のバランスが整う助けにもなります。その結果として、ストレスに起因するだるさや疲労感がやわらぐ可能性があります。たとえば、読書や音楽鑑賞、自然の中で過ごすこと、深呼吸や軽いストレッチなど、自分自身が心地よいと感じる方法を取り入れてみましょう。こうしたリラックス方法を日常生活に無理なく組み込むことで、ストレスが蓄積しにくくなり、体調管理にも良い影響を与えます。
適度な運動をする
体に倦怠感があるとき、じっとしたままで過ごすことが続くと、血流が滞りやすくなり、筋力の低下を引き起こす可能性があります。筋力が落ちると、日常の動作がより負担となり、その結果、以前よりも疲れやすさやだるさを強く感じるようになることがあります。このような悪循環を防ぐためには、無理のない範囲で身体を動かす習慣を取り入れることが重要です。たとえば、軽いウォーキングやストレッチなどの有酸素運動は血液の循環を促進し、全身のだるさを和らげる効果が期待できます。さらに、適度な運動を行うことで、睡眠の質が向上しやすくなり、自律神経のバランスが整いやすくなります。運動には精神的な緊張を和らげる作用もあるため、継続的に取り入れることが、疲労をためにくい身体づくりや気分の安定にもつながります。
入浴で体を温める
体の疲れがたまっていると感じるときは、湯船につかって体を温めることが、疲労感の軽減に役立つとされています。入浴によって体温が上昇すると、血液やリンパの循環がよくなり、老廃物の排出が促進されることで、全身の巡りが整いやすくなります。さらに、温熱効果により筋肉の緊張がゆるみ、心身ともにリラックスしやすくなるため、精神的な疲れを感じている場合にも入浴は有効です。日常のストレスを抱えている方にとって、入浴は手軽に取り入れられるセルフケアの一つといえるでしょう。ただし、熱すぎるお湯に長時間つかると、かえって体力を消耗してしまうことがあります。疲労回復を目的とする場合は、40度以下のぬるめのお湯に10分程度入るのが望ましいとされています。入浴後の水分補給も忘れずに行いましょう。
ストレッチやマッサージで筋肉をほぐす
ストレッチやマッサージで筋肉をゆるめることは、身体のだるさや疲労感を和らげる手段として効果的です。筋肉が硬くなっている状態をそのままにしておくと、血行が滞り、疲労が抜けにくくなることがあります。こうした場合には、ゆっくりと筋肉を伸ばしたり、やさしくマッサージを加えたりすることで、血液の流れが改善され、全身に酸素や栄養が届きやすくなります。これにより、筋肉内に蓄積しやすい疲労物質の排出が促され、疲れの解消につながります。ストレッチは、身体的な疲れだけでなく、精神的な緊張の緩和にも役立つとされています。筋肉を伸ばす動作によって副交感神経の働きが優位になることで、心拍や血圧が安定し、リラックスしやすい状態が生まれます。こうした効果をより実感するには、腹式呼吸を取り入れることがポイントです。鼻からゆっくりと息を吸ってお腹をふくらませ、口から少しずつ吐き出すことで、自律神経のバランスが整いやすくなり、心身の緊張がほぐれやすくなります。ストレッチを行うタイミングとしては、入浴後や就寝前の15分ほど前が適しています。体が温まっている時間帯は筋肉も柔軟になっており、ストレッチの効果を引き出しやすいとされています。ただし、寝る直前に激しい運動を行うと交感神経が活性化し、睡眠の質に影響を及ぼすことがあるため、やさしく、心地よいと感じる程度のストレッチにとどめましょう。継続的に取り入れることで、身体のだるさや疲労感を軽減し、毎日のコンディション維持に役立ちます。
正しい姿勢を心がける
現在では、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器の利用が日常的となり、多くの方が長時間同じ姿勢で作業を続ける生活スタイルを送っています。こうした長時間の同一姿勢は、首・肩・背中まわりの筋肉に緊張を引き起こし、血液の流れを妨げる原因になります。血流が滞ることで、筋肉に疲労物質が蓄積しやすくなり、体のだるさや疲れを感じやすくなることがあります。このような不調を予防するには、定期的に休憩を取り、肩や首のストレッチなどで筋肉をやさしく動かして血行を促すことが効果的です。あわせて、猫背を避けて背筋をまっすぐに保ち、ディスプレイの位置を目の高さに調整するなど、正しい姿勢を意識することも疲れにくい身体づくりに役立ちます。
だるさ・疲労感でお悩みの方は、当院へご相談ください
多くの方が、日常生活の中で「疲れ」や「だるさ」を感じることがあるのではないでしょうか。仕事や家事、対人関係といったさまざまな負担が、身体的・精神的な疲労となってあらわれることは珍しくありません。こうした疲労を感じたときには、その原因を見直し、自分に合った対策を取ることが重要です。しかし、「十分に休んでいるのに疲れが取れない」「慢性的にだるさが続く」といった症状がある場合には、身体の機能低下や疾患が背景にある可能性も否定できません。実際に、疲れやすさや慢性的な倦怠感は、甲状腺機能の異常、貧血、糖尿病、うつ病などの疾患が原因となっていることもあります。セルフケアだけでは改善が見られない場合は、我慢を続けずに早めに医療機関を受診することが重要です。当院では、長引く疲労感やだるさに対しても丁寧に診察を行い、必要に応じて血液検査、心電図検査、睡眠評価などを実施し、原因の特定に努めています。体調や症状に合わせて適切な治療やアドバイスをご提供いたしますので、「慢性的な疲れがつらい」「休んでもスッキリしない」とお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
よくある質問
倦怠感やだるさを感じる原因となる疾患には何がありますか?
倦怠感や体のだるさは、風邪やインフルエンザといった感染症だけでなく、貧血、低血圧、心不全、糖尿病、甲状腺機能の異常(機能亢進症・機能低下症)、睡眠時無呼吸症候群、自律神経の乱れ、うつ病、副腎機能不全、慢性疲労症候群など、さまざまな疾患に伴って生じることがあります。中には重大な疾患が背景にある場合もあるため、症状が長引く場合や悪化していると感じるときには、医療機関での診察を早めに受けることが重要です。
倦怠感とは、どのような感覚ですか?
倦怠感とは、「体が重く感じる」「全身に力が入らない」「常に疲れているような感じが抜けない」といった不快な状態を指します。明らかな原因が見当たらないまま続くケースも多く、通常の疲労とは異なり、休息を取っても十分に回復しないのが特徴です。場合によっては、集中力の低下や気分の落ち込み、日中の眠気を伴うこともあります。
倦怠感を改善するにはどうすればよいですか?
倦怠感の改善には、原因に応じた対応が必要です。生活習慣が関係している場合には、十分な睡眠を確保し、栄養バランスの取れた食事を意識しながら、適度な運動やストレス軽減につながる行動を取り入れることが大切です。鉄分やビタミンの不足が関与している場合には、食生活の見直しや必要に応じて栄養補助食品の活用が有効な場合もあります。また、甲状腺疾患や糖尿病、うつ病などの疾患が背景にあることもあるため、症状が継続する場合には、血液検査や必要な検査を含めて医療機関で相談されることをおすすめします。