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院長コラム

息苦しい原因、病気チェック、高齢者の対策

喉・呼吸器疾患

息苦しさについて

私たちはふだんの生活のなかで、じっとしているときや平地を歩く程度の軽い動作をしているときに、呼吸がしにくいと感じることはあまりありません。しかし「息苦しさ」とは、息を吸ったり吐いたりするのが難しく感じられる、または呼吸がしっかりできていないように思える不快な状態を指します。このような不快感の感じ方は人それぞれで、「息が吸い足りない」「深く呼吸できない」「呼吸が浅い」「胸が圧迫されるように感じる」など、さまざまな表現で訴えられることがあります。息苦しさの原因には、肉体的な疲労や精神的なストレスなど一過性の要因もありますが、肺や心臓などの疾患が関係していることもあるため、症状が続く場合には早めに医療機関を受診することが重要です。

疾患以外が原因となる息苦しさ

疲労

身体が極度に疲れてくると、全身の筋肉がこわばりやすくなり、胸や肩の周囲にある呼吸に関わる筋肉の働きも低下しやすくなります。すると、呼吸が浅くなったり、空気を十分に吸えないように感じたりして、息苦しさにつながることがあります。さらに、過度な疲労や慢性的な睡眠不足が続くと、自律神経の乱れによって心拍や呼吸のリズムが崩れ、息苦しさを感じやすくなるケースもあります。こうした状態では、まず十分な休養をとることが重要です。睡眠の質を高めることや、栄養バランスに配慮した食事を心がけることに加え、自分の体力に合った軽い運動を取り入れることで、呼吸の状態も徐々に落ち着いてくると考えられます。ただし、しっかり休んでも息苦しさが改善しない場合や、同じ症状が何度もあらわれる場合には、身体の内部に何らかの疾患が潜んでいる可能性があるため、早めに医師の診察を受けることが望まれます。

精神的なストレス

不安や緊張、または精神的な負担を感じているとき、人は意識せずに呼吸が浅くなったり、速くなったりすることがあります。こうした状態が続くと、「十分に息が吸えない」「空気をうまく取り込めない」といった呼吸のしづらさを感じるようになることがあります。「過換気症候群(過呼吸症候群)」と呼ばれる状態では、強いストレスなどにより呼吸が過度に速くなり、その結果として血液中の二酸化炭素濃度が低下し、息苦しさや手足のしびれ、めまいといった症状があらわれることがあります。このようなストレスによる呼吸の不調は、意識的に身体と心を休める時間を設けることや、ゆったりとした深呼吸、軽い散歩などのリラクゼーション方法で症状が和らぐ場合があります。しかしながら、ストレスの原因が長く続いていたり、息苦しさが日常生活に支障を及ぼすほど強くなっているような場合には、心療内科などの専門医に相談することが勧められます。

高齢になると起こりやすい息苦しさと対策

年を取るにつれて、筋力や肺の働きは次第に衰えていきます。そのため、以前は問題なくできていた階段の上り下りや軽い運動でも、「息が上がる」「呼吸がしづらい」といった息苦しさを感じやすくなります。特に高齢の方では、日常的な動作でさえ呼吸への負担が大きくなり、息苦しさが続くことで不安を感じたり、疲れやすくなったりすることもあります。このような息苦しさの背景には、加齢による身体の機能低下だけでなく、心不全や肺の疾患、あるいは貧血といった疾患が潜んでいる可能性があるため、注意が必要です。息苦しさを防いだり軽くしたりするには、以下のような対策が役立ちます。

  • 無理な運動は避け、自分の体力に合った軽い運動を日々続けること
  • こまめに換気を行い、室内の空気を入れ替えること
  • 猫背にならないようにし、呼吸しやすい姿勢を意識すること
  • 栄養バランスのよい食事を心がけ、体に良い状態を保つこと

息苦しさは、日々の生活を制限するだけでなく、重大な疾患の初期症状であることもあります。「年齢のせい」と思って見過ごさず、気になる変化があれば早めに受診することが重要です。

息苦しさの原因となる疾患

過換気症候群(過呼吸性症候群)

過換気症候群とは、強い不安や緊張などの心理的なストレスによって、必要以上に速く浅い呼吸を続けてしまう状態をいいます。このような過度な呼吸によって、体内から二酸化炭素が過剰に排出されると、呼吸性アルカローシスになることで、さまざまな症状を引き起こします。現れる症状には、「息がうまく吸えない」「呼吸が浅い」といった息苦しさに加えて、「息切れ」、手足のしびれ、口のまわりの異常な感覚、手指の筋肉のこわばり(テタニー)などがあります。これらの症状は一時的であることが多く、呼吸をゆっくりと整えることで徐々に改善していくことが一般的です。ただし、同様の症状が繰り返される場合や、日常生活に支障が出ている場合には、心療内科や一般内科などを受診することが望まれます。

貧血

貧血とは、血液中の赤血球に含まれて酸素を全身に運ぶ働きを担っているヘモグロビンの量が不足している状態をいいます。このような状態になると、体内の組織や臓器に必要な酸素が十分に行き渡らなくなり、息苦しさや息切れのほかに、めまい、立ちくらみ、頭痛などの症状がみられることがあります。とくに、階段を上るときや運動時のように身体の酸素消費量が増える状況では、症状が強くあらわれやすくなります。初期の貧血では症状が軽く、自覚しにくいこともありますが、貧血が長く続くと日常生活に支障をきたすこともあるため、早めに検査を受け、必要に応じて治療を行うことが重要です。

気管支喘息

気管支喘息は、気管支の内側に慢性的な炎症が生じていることで、ちょっとした刺激にも気道が敏感に反応し、気道が狭くなってしまう呼吸器の疾患です。この気道の収縮により、息苦しさや息切れをはじめ、長引く咳、ゼーゼー・ヒューヒューといった音が出る喘鳴(ぜんめい)、痰がからむ感じ、さらには呼吸困難などの症状が見られることがあります。症状は、季節の変わり目や運動をしたとき、また、ほこり・花粉・たばこの煙・冷たい空気など、さまざまな刺激によって引き起こされやすく、とくに夜間や明け方に悪化しやすい傾向があります。この疾患は、適切な薬物療法や生活環境の調整によってコントロール可能であることが多い一方で、治療を受けずに放置すると重い発作に至るリスクがあるため、早期の対応が重要です。

心筋梗塞

心筋梗塞とは、心臓に血液を送り込む役割を担う冠動脈が血栓などによって突然閉塞し、心筋(心臓の筋肉)への血流が遮断されることで、その一部が壊死してしまう重篤な循環器の疾患です。この疾患の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化では、コレステロールなどの脂質が血管の内側に蓄積してプラークと呼ばれる隆起が形成されます。このプラークが破れると血栓ができ、冠動脈が塞がれることで発症します。血流が途絶えて心筋が酸素不足に陥ると、胸の強い痛みや締めつけられるような圧迫感が現れるほか、息苦しさや息切れといった呼吸に関する症状も生じることがあります。特に、心筋の広い範囲に障害が及ぶと、呼吸困難や意識障害、さらには突然の心停止に至ることもあるため、迅速な対応と治療が必要な緊急の病態とされています。

狭心症

狭心症とは、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を届ける冠動脈が、動脈硬化などの影響で狭くなったり、一時的に血流が滞ったりすることによって、心筋に必要な酸素が十分に供給されなくなる状態を指します。同じく冠動脈が関与する心筋梗塞が、血管の完全な閉塞によって心筋の一部が壊死する病態であるのに対し、狭心症では血流の一時的な不足が主な原因となります。狭心症の症状としては、胸の痛みや圧迫されるような感覚、締めつけられるような違和感が典型的で、さらに息切れや息苦しさといった呼吸に関連する症状を伴うこともあります。これらの症状は、階段の昇降や歩行・運動といった心臓の酸素消費量が増える状況で起こりやすく、数分以内に自然に軽快することが多いという特徴があります。しかし、症状の頻度が増してきたり、安静時にも症状が現れるようになった場合には、狭心症が心筋梗塞へと進展するリスクが高まるため、できるだけ早い段階で医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

不整脈

不整脈とは、心臓の拍動が規則的なリズムを保てなくなる状態を指します。拍動が異常に速くなる「頻脈」、異常に遅くなる「徐脈」、あるいは本来のリズムに不規則な拍動が加わる「期外収縮」など、いくつかのタイプがあります。健康な成人の安静時の心拍数は、通常1分間に60〜100回の範囲で一定のリズムを保っています。しかし、体内に何らかの異常が起きるとこのリズムが乱れ、心拍数が100回/分を超える頻脈では、息苦しさや動悸が現れ、症状が進行すると意識がもうろうとすることもあります。一方、心拍数が60回/分を下回る徐脈、特に40回/分以下まで低下した場合には、めまいや立ちくらみ、息切れが起こりやすくなり、重症化すると意識障害を引き起こすリスクもあります。不整脈は、心筋梗塞や心不全などの基礎疾患に伴って発症することがあります。特に重症の不整脈では、心臓が全身に十分な血液を送れなくなり、生命に関わる危険性が高まるため、早期の診断と適切な治療が欠かせません。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、気管支や肺の組織が長期間にわたってダメージを受けることで、呼吸機能が徐々に低下していく慢性の呼吸器疾患です。この疾患の最も大きな原因は長年にわたる喫煙であり、タバコの煙に含まれる有害物質が肺に慢性的な炎症を引き起こし、気道が狭くなったり、肺胞が破壊されたりすることによって発症します。主な症状には、階段の上り下りや歩行などの運動時に感じる息切れ(労作時呼吸困難)のほか、長引く咳や痰の増加、さらに進行すると安静時でも呼吸が苦しくなるなどの呼吸症状が現れます。症状が進むと、わずかな動作でも息が上がるようになり、日常生活に支障をきたすことがあります。COPDは、いったん悪化すると元の状態に戻すことが難しいため、早期の発見と禁煙をはじめとした適切な治療・管理が極めて重要です。

肺がん

肺がんとは、肺にある気管支や肺胞などの組織に発生する悪性腫瘍であり、日本においてはがんによる死亡数の多い代表的な疾患の一つです。肺がんが進行すると、腫瘍によって気道が圧迫されたり、肺の正常な働きが妨げられたりすることで、息苦しさや呼吸困難といった症状があらわれる可能性が高まります。特に、がんが大きくなって気管支を閉塞した場合や、胸腔内に液体がたまる胸水が生じた場合には、呼吸への負担がさらに増し、症状が強く現れるようになります。

間質性肺炎・肺線維症

間質性肺炎とは、「間質」と呼ばれる肺胞(肺の中で酸素と二酸化炭素の交換を行う小さな袋)のまわりにある組織に炎症が生じる疾患です。この炎症が進行し、組織が線維化(硬く厚くなる変化)を起こすと、肺から血液中への酸素の取り込みがうまくいかなくなり、呼吸機能が次第に低下していきます。主な症状としては、息切れや持続する咳、呼吸が苦しくなる感じ(呼吸困難)があげられ、特に運動や歩行など身体を動かしたときに強く出やすいという特徴があります。疾患が進むと、日常的な軽い動作でも息苦しさを感じるようになり、生活に支障をきたすこともあります。

肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症とは、体内でできた血栓(血のかたまり)が肺の動脈に詰まり、血流をさえぎることで生じる疾患です。この血栓は、多くの場合ふくらはぎや太ももの深い静脈(深部静脈)にできるもので、これを深部静脈血栓症(DVT)と呼びます。DVTで形成された血栓が血液の流れに乗って肺に達し、肺動脈に詰まることで発症します。飛行機やバスなどで長時間座ったまま動かずにいると、脚の静脈に血栓ができやすくなることから「エコノミークラス症候群」とも呼ばれます。このほかにも、肥満、手術やけがのあとの安静、がん(悪性腫瘍)、長期間の寝たきり(臥床)、妊娠中、経口避妊薬(ピル)の使用などが、血栓ができやすくなる要因として知られています。症状としては、突然の呼吸困難や胸痛などがあり、急に症状が出ることが多いのが特徴です。また、失神を起こすこともあります。放置すると命にかかわる危険性があるため、迅速な診断と治療が必要な緊急疾患です。

気胸

気胸とは、肺の外側を覆う薄い膜(胸膜)に穴が開き、肺の中の空気が胸の中(胸腔)に漏れ出すため、肺が縮んでしまう疾患です。肺がしぼんで空気を取り込む力が弱くなると、十分な呼吸ができなくなり、息苦しさを感じるようになります。この疾患は、やせていて背の高い若年男性によく見られます。また、喫煙経験のある高齢の男性にも発症しやすいことが知られています。主な症状には、突然の息切れのほかに、胸の痛みや咳があり、状態が悪化すると呼吸困難に至ることもあります。

胸膜炎

胸膜炎とは、肺の表面と胸壁の内側をそれぞれ覆っている膜(胸膜)に炎症が生じる疾患です。この炎症は、細菌やウイルスによる感染症、結核菌の感染、膠原病(自己免疫疾患)、あるいは悪性腫瘍(特に肺がんや胸膜中皮腫)などが原因となって発症します。胸膜炎では、主な症状として息切れや息苦しさ(呼吸がしにくい感覚)のほか、発熱、片側性の胸痛があります。胸痛の特徴として、体動や深呼吸、咳などの胸膜が動くときに痛みが増します。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)

バセドウ病とは、甲状腺が過剰にホルモンを分泌することによって引き起こされる自己免疫性の疾患です。甲状腺ホルモンは、身体の代謝を調整する重要な役割を担っており、その分泌量が過剰になると、全身のさまざまな機能に影響を与えるようになります。主な症状としては、息切れや息苦しさ(呼吸が浅く感じる、呼吸が速くなるなど)に加えて、心臓が速く打つ感じ(動悸)、強いだるさや疲労感、手足のしびれ、食欲が増すのに体重が減る、汗をかきやすくなる、イライラする、落ち着かないといった精神的な不安定さなどがあらわれます。これらの症状は一つだけでなく、複数が同時に出現することもよくあります。

息苦しさの検査

息苦しさや息切れといった症状がある方には、その原因を明らかにするため、いくつかの検査を行います。主な検査項目には、血液検査、肺の機能を調べる呼吸機能検査、胸部X線検査(レントゲン)、CTによる画像検査のほか、血中酸素飽和度(SpO₂)や脈拍の測定などが含まれます。検査の結果、精密検査や高度な画像検査が必要とされる場合には、当院が連携している専門の医療機関をご紹介いたします。また、息苦しさに加えて胸の痛みがある場合や、症状に不安がある方は、我慢せずに早めに受診してください。

息苦しさの治療

息苦しさや息切れの治療は、その原因となっている疾患に応じて適切に行うことが重要です。たとえば、気管支喘息、肺炎、胸膜炎などが原因である場合は、それぞれに対する薬物療法(吸入薬、抗菌薬、消炎鎮痛薬など)を行うことで、呼吸の不快感が改善される可能性があります。慢性閉塞性肺疾患(COPD)が原因の場合は、まず禁煙が最も重要な対策となります。病状が進行している場合には、在宅酸素療法や携帯用酸素ボンベの使用が必要になることもあります。また、心筋梗塞や狭心症のように、心臓の血管(冠動脈)が狭くなったり詰まったりして心筋に酸素が届きにくくなる疾患では、血流を改善する治療が中心となります。具体的には、血管を拡げる薬や血栓を防ぐ薬の投与、またはカテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)やステント留置術などを行い、心筋への酸素供給を改善することで息苦しさの軽減を図ります。不整脈が原因の場合には、薬による心拍数の調整に加えて、カテーテルアブレーションやペースメーカーの植込みといった治療が選択されることもあります。一方、貧血によって酸素の運搬が不足している場合は、鉄剤の補充や、必要に応じて輸血が行われます。特に高齢者では症状が進行しやすいため、注意が必要です。

よくある質問

息苦しさを感じるのはなぜですか?

息苦しさを引き起こす要因は、大きく分けて2つに分けられます。ひとつは、疲労の蓄積や精神的なストレスなどによって、一時的に呼吸が浅くなる場合です。もうひとつは、肺・心臓・血液に関係する疾患が原因となっている場合です。たとえば、気管支喘息や肺炎、貧血、心筋梗塞、狭心症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、酸素が十分に体内に取り込めなくなることで、呼吸が苦しく感じられるようになります。息苦しさの原因によって治療方法は異なります。そのため、症状が長く続く・悪化する・繰り返すといった場合には、早めに医療機関で検査を受けることが重要です。

息苦しさを感じたときはどう対応すればよいですか?

呼吸のしづらさを感じたときには、まず動きを止めて安静にし、ゆっくりと深呼吸を試してみましょう。一時的な疲労やストレスが原因の場合には、しっかりと休息をとったり、軽いストレッチやリラクゼーションを取り入れたりすることで、自然に改善することもあります。ただし、胸の痛みを伴う、呼吸が非常に浅い、休んでも改善しない、動悸やめまいがある、症状が頻繁に繰り返されるといった場合には、心臓や肺の疾患が関与している可能性があるため、早急な受診が推奨されます。とくに高齢者や基礎疾患を持つ方は、症状を自己判断で済ませず、早めに受診することが大切です。

呼吸がしにくいのはどんな理由が考えられますか?

「息がしにくい」と感じる背景には、さまざまな身体的要因が関係しています。たとえば、肺や横隔膜などの呼吸筋の働きが低下していたり、気道が炎症や閉塞によって狭くなっていたりする場合があります。また、心臓の機能が低下している場合や、貧血によって全身への酸素運搬が不十分になることも、呼吸のしづらさにつながります。さらに、精神的なストレスや不安が続くと、無意識のうちに呼吸が浅く速くなることがあり、これが過換気症候群として現れるケースもあります。このような状態が続く場合や、原因が明確でないまま不安が強いときには、血液検査、呼吸機能検査、胸部X線・CT検査などの画像診断を受けることで、適切な原因の特定と治療につながります。