脈・脈拍が早い(頻脈)原因・対処方法
頻脈とは

頻脈とは、脈の打つ速さが通常よりも早くなる状態のことを指し、安静にしていても心拍数が1分あたり100回を超える場合に頻脈と診断されます。頻脈は不整脈の一つであり、心臓が血液を送り出す働きに支障を及ぼす可能性があります。心臓は、本来、全身に血液を循環させるポンプとしての役割を担っています。しかし頻脈の状態では、1回の拍動で送り出される血液の量が少なくなり、全身に必要な量の血液が行き渡りにくくなります。その結果、血流が低下したり、心臓への負荷が増して疲弊したりすることがあります。重症化すると、心機能が著しく低下し、最悪の場合には心停止に至ることもあります。なお、成人の安静時の心拍数は通常1分間に60〜100回の範囲とされており、100回を超える場合は頻脈とみなされます。
頻脈の症状
- 脈が速くなる
- 胸の圧迫感、胸がざわざわする感じ
- 息切れ
- 吐き気
- 冷や汗
- めまい・ふらつき・たちくらみ
- 力が入らない、強い倦怠感
- 意識がぼんやりする、意識がはっきりしない
- 意識を失う、一時的に気を失う
- けいれん(痙攣を伴う失神)
など
疾患以外の頻脈の原因
ストレス
ストレスは、頻脈の原因としてよく見られる要素の一つです。強い緊張や不安、精神的なプレッシャーを受けると、自律神経のうち交感神経の働きが高まり、身体は危機に備える状態になります。この反応によって心拍数が上昇し、血圧も上がりやすくなります。とくにストレスが長く続いたり、急に強くかかったりすると、安静時でも心臓がドキドキと速く打つように感じることがあります。これは心臓の構造や機能に異常があるわけではなく、一時的な自律神経の乱れによる自然な反応です。ただし、こうした状態が繰り返し起こったり、動悸や息苦しさ、不安感が強まったりする場合には、不整脈やパニック障害など別の原因が関係している可能性もあるため注意が必要です。気になる症状が続くときは、早めに医師の診察を受けることをおすすめします。
睡眠不足・疲労
睡眠が不足していたり、疲れが蓄積している状態が続くと、心拍数が高くなりやすくなり、頻脈の原因になることがあります。この背景には、自律神経の働きの乱れが大きく関わっています。本来、私たちの身体は十分な睡眠や休養をとることで、交感神経と副交感神経のバランスが整い、心拍や血圧が安定した状態に保たれています。ところが、睡眠時間が足りない、眠りが浅い、あるいは長時間の勤務や身体・精神への過度な負担が続くと、交感神経の働きが優位になり、自律神経の調整がうまくいかなくなります。その結果、安静にしていても脈拍が速くなり、胸がドキドキするなど、頻脈のような症状が現れることがあります。さらに、睡眠不足や慢性的な疲労は、身体にとってストレスと同じような状態を引き起こし、交感神経の緊張が長く続いてしまいます。特に、「なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「休んでも疲れが抜けない」といった状態が続いている方は、自律神経のバランスが崩れやすくなり、頻脈のリスクが高まるため注意が必要です。
アルコール・カフェインの摂取
アルコールやカフェインを摂取することで、一時的に心拍数が上昇し、頻脈のような症状が現れることがあります。カフェインは、コーヒー、エナジードリンク、緑茶などに含まれており、脳を覚醒させる作用に加えて、心臓の収縮力を高め、心拍数を増やす働きもあります。そのため、短時間に多量のカフェインを摂ると、心拍が速くなり、動悸を自覚することがあります。一方、アルコールは一般的にリラックス作用があるとされていますが、摂取後に血管が拡張して血圧が一時的に下がることで、反射的に心拍数が上がる場合があります。さらに、アルコールの摂取は睡眠の質を低下させたり、自律神経の働きを乱したりすることがあり、これも心拍数の変動に影響を与えます。特に、カフェインやアルコールに対して感受性が高い方や、日常的に多量を摂取している方は、頻脈のような症状が現れやすくなることがあるため、注意が必要です。「飲んだあとに動悸がする」「脈が速くなる」といった経験がある場合は、摂取量やタイミングの見直しが推奨されます。
体質
はっきりとした疾患がない場合でも、もともと脈拍が速くなりやすい体質の方がいます。そうした方では、安静にしている状態でも心拍数がやや高めで、1分間に90〜100回程度になることもあります。心拍数は、年齢や体格、筋肉量、基礎代謝、自律神経の働きなど、さまざまな身体的要因によって左右されます。なかでも、交感神経の活動が副交感神経よりも優位になりやすい傾向がある方は、特別な刺激がなくても心拍数が上がりやすい傾向があります。こうした状態は、必ずしも疾患による異常ではなく、体質による正常な個人差の範囲内とされることが多いです。ただし、「体質だから問題ない」と自己判断してしまうことで、他の原因となり得る要素を見落としてしまうリスクもあります。特に、動悸や息切れ、疲れやすさといった症状が見られる場合には、念のため医療機関を受診し、心臓や自律神経の状態を確認しておくことが推奨されます。
年齢に伴う体の変化
年齢を重ねるにつれて生じる身体の変化は、心拍数の調整や自律神経の働きにも影響を与えることがあり、頻脈の一因となることがあります。加齢により、自律神経の調整力は次第に低下していきます。特に、副交感神経の働きが弱まる一方で、交感神経が優位になりやすくなるため、安静時でも心拍数が高くなりやすい状態になりがちです。さらに、血管の柔軟性の低下や基礎代謝の変化によって、わずかな刺激にも身体が敏感に反応し、心拍数が上昇しやすくなることがあります。また、年齢とともに睡眠の質が低下したり、疲労の回復が遅くなったりすることも、自律神経のバランスを乱す要因になります。そのため、特に持病がない場合でも、加齢に伴う体の変化として頻脈のような症状を自覚することがあります。ただし、そうした症状を「年齢のせい」と思い込んでしまうと、実際には心臓や甲状腺の疾患が隠れていたというケースも少なくありません。気になる症状がある場合は、自己判断せずに一度医師の診察を受け、正確な評価を受けることが重要です。
脈拍が早い(頻脈)の原因となる疾患
不整脈
不整脈とは、心臓の拍動のリズムが乱れたり、正常よりも速くなったり遅くなったりする状態を指します。心臓は本来、電気信号によって規則正しく収縮を繰り返していますが、この電気の流れに異常が生じると、脈が不規則になったり、過度に速くなったり(頻脈性不整脈)、逆に遅くなったり(徐脈性不整脈)することがあります。なかでも、頻脈の原因として関係が深いのは「頻脈性不整脈」と呼ばれるタイプです。頻脈性不整脈と呼ばれるタイプには、以下のような種類があります。
心房細動
心房細動とは、心臓の上部にある心房が不規則かつ速いペースで細かく震えるように動く不整脈の一種です。このため、脈拍も不規則になり、ばらつきのある脈が特徴的です。年齢とともに発症率が上昇する傾向があり、心房内に血栓ができやすくなることで脳梗塞のリスクが高まることでも知られています。
発作性上室性頻拍(PSVT)
発作性上室性頻拍とは、心拍数が急に速くなり、一定のリズムで続いたのち、突然正常に戻るという特徴を持つ不整脈の一種です。心拍が急激に速くなることで、動悸や胸の苦しさ、息切れを感じることがあります。このタイプの頻脈は、若年層にもみられることがあり、基礎疾患がない方にも発症することがあります。
心房粗動
心房粗動とは、心房が1分間に約240~440回の速さで規則的に電気的興奮を繰り返す不整脈です。心房細動と比較すると脈のリズムは整っていることが多いものの、心拍数が著しく速くなる点は共通しており、頻脈の原因となることがあります。
心室頻拍
心室頻拍とは、心臓の下部にある心室から異常な電気信号が発生することによって生じる重篤な不整脈です。この状態では、心拍数が著しく増加し、心臓が効率的に血液を送り出せなくなるため、脳や全身への血流が不足し、失神を起こすことがあります。場合によっては、生命に関わる危険な状態に至ることもあるため、迅速な対応が求められます。
心不全
心不全とは、心臓の収縮力や拡張機能が低下し、全身に必要な量の血液を十分に送り出せなくなる状態を指します。心機能が落ちると、体はそれを補おうとして交感神経を活性化させ、心拍数を増加させることで血流を保とうとします。その結果、心不全では安静にしているときでも脈が速くなることがあり、動悸、息切れ、強い疲労感(倦怠感)などの症状を伴うことがあります。このような頻脈が持続すると、かえって心臓にさらなる負担がかかり、機能低下が進むという悪循環を引き起こすこともあります。また、心不全には徐々に進行する慢性心不全と、急に状態が悪化する急性心不全があり、いずれの場合も早期の診断と適切な治療が必要です。
狭心症
狭心症とは、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る冠動脈が狭くなることで、一時的に酸素や栄養の供給が不足し、胸の痛みや圧迫感が引き起こされる疾患です。特に、運動や精神的な緊張などで心臓の酸素の必要量が増えたときに症状が現れやすく、典型的には「胸が締めつけられるような感覚」が数分間持続し、その後自然におさまるのが特徴です。発作が起きている間、心筋が酸素不足に陥ることで心臓はより強く拍動しようとし、交感神経が活性化されます。その結果、心拍数が上昇し、頻脈の症状があらわれることがあります。さらに、心拍が速くなることで心筋の酸素消費量が増加し、狭心症の症状を悪化させる悪循環に陥ることもあります。狭心症の主な原因は冠動脈の動脈硬化であり、放置すると心筋梗塞などの重篤な心疾患へ進行する可能性もあります。動悸や頻脈に加えて胸の違和感や痛みを感じた場合は、早めに循環器専門医の診察を受け、適切な検査と治療を行うことが重要です。
心筋梗塞
心筋梗塞とは、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を供給している冠動脈が完全に閉塞することで、心筋の一部が壊死してしまう状態を指します。主な原因は動脈硬化により血管内に形成されたプラーク(脂質の沈着)が破れ、その箇所に血栓(血の塊)ができて血流が遮断されることです。発症時には、突然出現する強い胸の痛み(胸痛)に加え、冷や汗、呼吸困難、吐き気、顔面の蒼白などを伴うことが多く、迅速な救命処置が求められる緊急性の高い疾患です。心筋が酸素不足に陥ると、身体は拍動を維持しようとして交感神経を活性化させ、その結果として心拍数が上昇し、頻脈が現れることがあります。さらに、心筋への損傷が重度になると、不整脈や心停止を引き起こす危険性もあります。頻脈や動悸、激しい胸痛といった症状が急に出現した場合には、迷わず救急車を呼び、できるだけ早く医療機関で診察・治療を受けることが極めて重要です。
糖尿病
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が長期間にわたって高い状態が続く疾患です。この状態は、血糖値を下げる働きを持つホルモン「インスリン」の分泌が不足したり、その作用が十分に発揮されなくなることによって引き起こされます。糖尿病が進行すると、神経や血管への障害が生じやすくなり、その影響が自律神経の働きにも及ぶことがあります(糖尿病性神経障害の自律神経障害)。交感神経と副交感神経の調整がうまくいかなくなると、安静にしている状態でも心拍数の増加がみられることがあります。また、低血糖や脱水などの急激な代謝の乱れが起きた場合にも、心拍数の上昇がみられることがあります。
心臓弁膜症
心臓弁膜症とは、心臓の内部にある4つの弁(僧帽弁・大動脈弁・三尖弁・肺動脈弁)のうちいずれかが正常に開いたり閉じたりしなくなることで、血液の流れに支障をきたす疾患です。弁が十分に開かず血液の流れが妨げられる状態を「狭窄」、逆に弁が完全に閉じずに血液が逆流してしまう状態を「閉鎖不全」と呼びます。これらはどちらも、心臓に過度な負担をかける要因となります。弁膜症が進行すると、心臓が全身に必要な血液を効率よく送り出せなくなり、その代償として心拍数が増える「頻脈」が起こることがあります。さらに、ポンプ機能が低下することで、動悸や息切れ、倦怠感といった症状が現れることも少なくありません。初期段階では症状がほとんど出ない場合もありますが、進行すると心不全や不整脈などの合併症のリスクが高くなるため、頻脈や動悸などの変化に気づいた際には、早期に循環器内科などでの検査を受けることが重要です。現在では、薬による管理に加え、カテーテル治療や外科手術など治療の選択肢も広がっています。
先天性心疾患
先天性心疾患とは、生まれつき心臓の構造に異常がある状態を指し、心臓の壁や弁、血管の形状や位置に問題がみられる一群の疾患をまとめた総称です。代表的な疾患には、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、ファロー四徴症などがあり、症状の程度は軽いものから重篤なものまで幅があります。多くは小児期に診断をされ、病状に応じた対応が行われます。しかし、成人になってから診断される先天性心疾患もあります。例えば、心房中隔欠損症があっても、小児期には心雑音に乏しかった場合には、成人になって発見されることもあります。病勢が進行すると徐々に、右心房の負荷によって心房筋のリモデリングが進んで、心房頻拍や心房粗動などの不整脈(頻脈)が生じることがあります。エプスタイン病も軽症例では成人まで症状が出ない方もいます。こちらも病勢の進行で、心房性の不整脈(頻脈)が生じることもあります。現在では医療の進歩により、多くの先天性心疾患は早期に診断され、適切な治療によって日常生活を問題なく送れるケースが増えていますが、動悸や脈拍の異常が続くような場合には、定期的な診察や心機能のフォローが重要です。
バセドウ病
バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで全身の代謝が異常に高まる疾患です。この疾患は、自己免疫の異常によって甲状腺が過剰に刺激され、ホルモンの分泌量が増えることで発症します。甲状腺機能亢進症の代表的な原因であり、特に20〜40代の女性に多くみられます。甲状腺ホルモンは、心臓の拍動を促進する働きがあるため、バセドウ病では安静にしていても心拍数が上がり、頻脈の症状が現れやすくなります。そのほかにも、動悸、発汗の増加、手のふるえ、体重の減少、全身の疲労感、情緒不安定(イライラ)など、交感神経の過活動に関連する症状が見られます。この疾患を放置すると、心房細動などの不整脈や、心不全に発展するリスクが高まる可能性があるため、バセドウ病が疑われる場合は、早めに専門的な診断と治療を受けることが重要です。治療法には、抗甲状腺薬による内服治療、放射性ヨウ素による治療、外科的手術があり、症状や病状に応じて選択されます。
脈拍が早い(頻脈)の検査
心電図検査
心電図検査とは、心臓が拍動するときに発生する電気的な信号を波形として記録し、脈のリズムや心拍の状態、不整脈の有無を確認するための検査です。身体の表面に小さな電極を装着するだけで実施でき、痛みを感じることなく、体への負担も少ないことから、頻脈の初期診断において非常に重要な検査とされています。この検査では、心拍数の増減、拍動の規則性、電気信号が心臓内をどのように伝わっているかを確認することができます。そのため、頻脈の原因が不整脈によるものかどうかを見極めるうえで有用な手段となります。特に、心房細動(Af)、発作性上室性頻拍(PSVT)、心室頻拍(VT)といった頻脈性の不整脈は、心電図で異常が明確に示されることが多く、動悸や脈の速さを自覚した際には早めの検査が推奨されます。なお、頻脈や不整脈の症状が出ていないときには、通常の心電図では異常が記録されない場合もあるため、そのような場合には「24時間心電図(ホルター心電図)」など、長時間にわたって心電図を記録する検査を行うことがあります。
血液検査
血液検査とは、採血によって得られた血液を調べ、体の中で起きている異常や変化を見つけるための検査です。脈が速くなる「頻脈」の原因を調べるときにも、有用な基本的な検査のひとつです。のど仏(甲状軟骨)の下にある甲状腺という臓器が必要以上に働いてしまう「バセドウ病」では、甲状腺ホルモンが多く出ていないかを血液で確認します。心不全が疑われる場合にはBNPを測定します。BNPは心不全などにおいて心負荷とともに心室から分泌される物質(ペプチド)で、心負荷とともに分泌量が増えて血中濃度が上昇していきます。そのほかにも、貧血や脱水なども、心臓が頑張って働こうとするために脈が速くなる原因になります。こうした場合には、赤血球数、水分バランス、電解質濃度などを詳しく調べていきます。このように、血液検査は頻脈の背後にある疾患や体調の変化を見つけるために、とても重要な検査です。
胸部レントゲン検査
胸部レントゲン検査とは、X線を使って胸の内部を撮影し、心臓や肺の状態を画像で確認する検査です。撮影は短時間で終了し、体への負担も少ないことから、頻脈(脈が速くなる状態)の原因を調べる際によく行われる基本的な検査のひとつです。頻脈の原因として、心臓が大きくなる「心拡大」や肺の疾患が関係していることがあるため、この検査では心臓の大きさや形、肺の状態などを確認します。たとえば、心不全によって心臓が拡大していたり、肺に水がたまる(肺うっ血や胸水)といった変化が起きている場合、胸部レントゲンでその異常が発見されることがあります。また、肺炎、気胸(肺の空気がもれて肺がしぼむ状態)などの肺の疾患も頻脈の原因となることがあり、これらの所見もレントゲン検査で確認可能です。そのため、頻脈が続いている場合は、心臓だけでなく肺の状態も含めて総合的に確認することが重要です。
心エコー検査
心エコー検査とは、超音波(エコー)を用いて、心臓の動きや形、そして血液の流れをリアルタイムで映し出す検査です。X線とは異なり放射線を使わないため被ばくの心配がなく、痛みもなく受けられることから、身体への負担が少ない安全な検査として日常的に広く行われています。そのため、頻脈(脈拍が速くなる状態)の原因を調べる際にも、基本的な検査のひとつとして活用されています。この検査によって、心臓の大きさや壁の厚み、弁の開閉の状態、心筋の収縮力、血液の逆流や流れの異常がないかなど、心臓の構造と機能の両面を詳しく調べることができます。こうした情報をもとに、心不全、心筋症、弁膜症、先天性心疾患など、頻脈の背景にある可能性のある心臓の異常を見つけることが可能です。また、不整脈が心臓の働きにどのような影響を及ぼしているかを確認する場面でも、心エコー検査は重要な役割を担います。頻脈があるときには、心臓が適切に機能しているかを確認することが重要であり、その評価を行ううえで心エコー検査は欠かせない手段といえます。
頻脈の治療
生活習慣の改善
頻脈が軽度であり、心臓や内科的な疾患が明確に認められない場合には、まず生活習慣の見直しから始めることが治療の基本となります。日常の些細な習慣が、脈拍の速さに影響しているケースは少なくありません。まず食事においては、栄養のバランスがとれた内容を意識し、脂っこいものや塩分・糖分のとりすぎを控えることが重要です。さらに、ウォーキングや軽いストレッチなどの無理のない有酸素運動を日常的に取り入れることで、自律神経のバランスが整い、心拍の安定につながることがあります。また、睡眠の質を確保することも重要です。就寝と起床の時間を一定に保ち、睡眠不足や不規則な生活を避けるよう心がけましょう。加えて、カフェインやアルコールの過剰摂取、そして精神的ストレスも交感神経を刺激して頻脈を悪化させる要因になるため、これらの影響を最小限に抑える工夫も必要です。このように、生活習慣の改善は薬を使わずに心拍を整えるための基本的な方法であり、頻脈の予防や再発の防止にもつながります。症状が軽い段階では、まずご自身の生活を振り返り、できることから少しずつ見直していくことが重要です。
薬物療法
頻脈の治療では、薬を使って心拍数を調整する「薬物療法」が行われることがあります。これは、症状が強く出ている場合や、生活習慣の見直しだけでは十分に改善が見られない場合に検討される治療方法です。使用される主な薬には、脈の速さを抑えてリズムを整える作用を持つ「抗不整脈薬」や「β遮断薬」などがあります。これらの薬は、心臓の興奮を抑制することで、過剰に速くなっている心拍を安定させる効果があります。さらに、頻脈の原因が心房細動よるものである場合には、脳梗塞を防ぐ目的で「抗凝固薬」が処方されることもあります。抗凝固薬は、血液が固まりにくい状態を保ち、血栓(血のかたまり)ができにくくするために使用されます。これらの薬は適切に使えば高い効果が期待できますが、副作用のリスクもあるため、必ず医師の診察と指導を受けながら使用することが重要です。自己判断で服用をやめたり、薬の量を変えたりするのは危険です。安全に治療を続けるためには、定期的な診察と、必要に応じた血液検査などによる経過観察を受けることが欠かせません。
自分でできる脈の測り方(自己検脈)
脈の不規則さや違和感を感じたときは、以下の手順でご自身の脈拍を確認してみましょう。
Step.1
まず、手首の親指側にある動脈で脈を測ります。
Step.2
手首の関節からやや下の親指側を指先で軽く押さえると、脈を感じるポイントがあります。
Step.3
その場所に反対の手の人差し指・中指・薬指の3本の指をそっと当て、1分間に何回脈打つかを数えます。
Step.4
繰り返すうちに、自然に脈の測定に慣れてきます。
脈拍数は、精神的な緊張やリラックスの状態、運動、入浴、発熱など、さまざまな要因で変動します。そのため、ふだん安静にしているときの脈拍を把握しておくことで、動悸や脈の違和感があるときに異常に気づきやすくなります。
よくある質問
動悸と頻脈の違いは?
動悸とは、「胸がドキドキする」「脈が強く打っている」といった感覚を自覚する症状です。一方、頻脈とは、医学的に1分間の心拍数が100回を超えている状態を指します。つまり、動悸は主観的に感じるものであり、頻脈は客観的な心拍数の数値として捉えられる状態です。動悸を感じていても心拍数が正常範囲であることもあれば、頻脈であっても本人が自覚していないこともあります。
心拍数が早いときはどうしたらいいですか?
まずは動作を中止して安静にし、深呼吸を行って心を落ち着けましょう。座った姿勢で目を閉じ、ゆっくりと腹式呼吸を行うと、自律神経のバランスが整いやすくなり、交感神経の過剰な働きが抑えられることがあります。カフェインのとり過ぎや強いストレス、睡眠不足などが原因として考えられる場合は、それらの要因を見直すことが有効です。また、脱水状態も頻脈の原因となるため、こまめな水分補給も意識しましょう。症状が改善しない、あるいは胸の圧迫感や息切れなどを伴う場合は、医療機関での診察を受けてください。
安静にしてるのに脈が早いのはなぜですか?
何もしていないのに脈が速くなる場合、自律神経の乱れやストレス、慢性的な疲労、睡眠の質の低下、カフェインやアルコールの過剰摂取などが関係していることがあります。一方で、不整脈や心不全、甲状腺機能亢進症といった疾患が背景にある可能性もあるため、症状が継続する際には医師の診察を受け、必要に応じて検査を行うことが推奨されます。